2017/09/09 富士山 須山口 富士宮口で出会った山野草の一覧です。
これまでは山梨方面を麓から歩くというマイナーコースを繰り返してきました。道中は予想以上に多くの草花を見かけ、ただただ歩くだけの富士登山に文字通り花を添えてくれていましたが、今回歩いた須山口コースは時期的なものもあったのか花の種類はそう多くないように感じました。
というのも一合目から三合目を過ぎるまで暗い林の中の道となり、そこからは急に開けた砂礫道が続くためと思われます。
もっとも鮮やかだったのは二合目、三合目付近の森林限界少し下で頭上が開けたようになった場所です。陽性の下草が生え、明るい場所を好むコケや地衣類が彩りを添え、一種お花畑と呼んでも良いような地でした。
また、御殿庭上と呼ばれる辺り、特に宝永第三火口は広く沈み込んだ砂礫の上にパッチ状に草花がその領分を広げ、カラマツの幼木が徐々に増えていく様が見られ、非常に面白い景観を成していました。
シロヨメナ(
Aster ageratoides ssp. Leiophyllus) キク科
一合目から二合目にかけて登山道脇で比較的多く見られました。林の中の少しでも明るい所があれば必ずといっていいほど生えています。
ホソエノアザミ(
Cirsium tenuipedunculatum) キク科

同定は怪しいですが、これも三合目より下の明るい草地、登山道脇に多かったです。所々登山道に飛び出していて棘が刺さり痛い思いをしました。
本種はタイアザミととてもよく似ています。帰宅して調べてみるまでは全くもってタイアザミだとばかり思っていました。が、このホソエノアザミは富士山周辺に分布するとのことで認識を改めました。
キオン(
Senecio nemorensis ) キク科

同じく草原地帯に咲いていたのはキオン。後述するアキノキリンソウに少し似ているのですが、分布も似通っているので遠目には結構判別がつきません。強いてあげるなら花弁の中心が茶色になることや花弁自体が長く、放射状に花が付くことでしょうか。背も高いですが、やはり遠目だと・・・。

宝永第三火口の周辺でも見られました。周囲に緑が多いとはいえ砂礫の上に根を下ろすとは結構強靭な種なのですね。2000m付近でも花を咲かせるというのも強さを感じます。

二合目の草原に咲く花々。
このあたりは元は倒木地帯と呼ばれていました。恐らく台風の影響で一気に樹が減って明るくなったところを山野草が埋めたのでしょう。先ほどのシロヨメナやホソエノアザミ、キオン、アキノキリンソウなどが咲き乱れていました。他にシモバシラも一株見かけましたが暗くて写真がうまく撮れていませんでした。
ミヤマハナゴケ(
Cladonia stellaris (Opiz) Pouzar & Vezda) ハナゴケ科

二合五勺あたりから森林限界あたりまでの登山道を少しそれたカラマツ林の足元には白い地衣類が広がっています。ちょうど同じくらいの条件にある山梨側の奥庭付近でも似たような光景が見られるので、適度な日光、標高の環境を好むのでしょう。

まさに地衣類といった感じ。
アキノキリンソウ(
Solidago virgaurea var. asiatica ) キク科


二合目付近から三合目の砂礫地帯、さらには富士宮口新六合目やその上まで分布する強健種。今回オノエイタドリと並んで見る機会の多かった花です。平地でも見られるので結構雑にしか写真を撮っていないという・・・。
他の山ならどこでもと言っていいほど見られるメジャーな種でもあります。
イワオウギ(
Hedysarum vicioides) マメ科
見落としていたのか一株しか見なかったのが本種。四合目を過ぎてカラマツも低木にしか育たないような砂礫の傍らにそっと咲いていました。白飛びしていて見づらいですが、大きなマメ科らしい花が連なる様についています。
サルオガセ(
Usnea longissima) ウメノキゴケ科
二合五勺付近だけで見られた樹皮や枝に着生する地衣類。木から垂れ下がって先のミヤマハナゴケと同じく山を白く彩っていました。
サルオガセとしたのはあくまで仮で、地衣体をじっくりと見ていなかったため、細かい種までは分かりませんでした。しかしその姿から見て水蒸気と光合成だけで育つ種であることは間違いなさそうです、
オノエイタドリ(
Fallopia japonica var. compacta) タデ科
今回、二合目より上のほとんどの場所で見られたのは本種。さすがに山頂では分布していませんでしたが、八合目付近までは平気で砂礫にしがみつくその姿を観察できました。
しかしオンタデを見ることがありませんでした。見落としたのか、イタドリの誤認なのか。恐らく宝永山付近にはちゃんと咲いていたんだと思います。大体が疲れていて適当に見過ごしていることが多いので・・・。



山小屋付近によくありがちな岩盤にも根を張っていました。

八合目付近。砂礫といえどしっかりと根を張りその領分を広げています。





特にイタドリの仲間が顕著に広がっていたのが宝永第三火口付近でした。多くの群生が見られ、そしてその緑地化した場所を苗床にカラマツなどの幼木が背を伸ばそうとしていました。
実にパイオニア植物らしい姿と言えるでしょう。
また、富士山はハイマツではなくカラマツが標高や気象に抑え付けられた形で広がっているのも特徴的です。森林限界付近まで来るとハイマツと変わらない背丈にしか育たず、それらが密に育つことでこんもりとした茂みを形成していて、よくよく見ない自分は当初ハイマツだとばかり思っていました。
イワツメグサ(
Stellaria nipponica ) ナデシコ科

七合目付近の小屋周辺で観察。こちらも高地のパイオニア植物として知られています。一見繊細に見えますが肉質の葉、弦状に延びその名の通り岩盤にしがみつく姿が特徴的です。
砂礫地帯より小屋付近の堅い岩盤を好むようです。
ヤハズヒゴタイ(
Saussurea triptera ) キク科
草原から亜高山帯に分布する野草。こちらは3000mを超す七合目にも生えていたのでこれもかなり強健種と言えるでしょう。他の山ではせいぜい(?)木陰に群生するくらいなのですが。
名前の由来となる葉はしっかりと撮っていませんでした。ヒゴタイの仲間は見分けが付けづらいのですが生息地で本種としました。葉は幾分かやつれていましたが花はまだまだ咲きそうな株です。
ヤマホタルブクロ(
Campanula punctata var. hondoensis ) キキョウ科
じゃりじゃりの道の脇に花だけ落ちているものかと思って触ってみたらちゃんと地面から生えていました。強風などに耐えるためなのでしょう。
この周りの葉も同種なので、一斉に咲くと似たような花が地面に寝たように広がるのでしょう。宝永第一、第二火口付近でこのような姿でいくつか見られました。

二合目から三合目の森林の中では立ち上がった姿も見られました。山梨側では背が高く育っているものをよく見かけたので、静岡側はこれからといったところなのでしょう。しかし横に寝た花をつけた状態で受粉できるんでしょうか?
フジアザミ(
Cirsium purpuratum ) キク科
最後は富士の女王と呼んでも過言ではないフジアザミです。水ヶ塚公園付近に枯れかけたのがいくつか、後は宝永第三火口付近に多く見られました。


今年は暖かかったからか、葉も花もかなり綺麗な状態の個体とたくさん出会えました。山梨側ではなかなか見ることがないので久しぶりの邂逅に興奮です。
日光以外はおよそ栄養の乏しそうなこの砂礫の上でここまで大きな花をつけられるのは実に不思議。開花は相当なエネルギーを要求するはずですから。
今回の白眉は何と言っても宝永第三火口の様子です。富士宮側は山梨の諸登山コースに比べ花は多くないものの、人の立ち入らぬ火口部という貴重な土地を残しており、僕自身も現地でその景色に心を奪われました。火口が緑でいっぱいになる日が楽しみです。
さて、普通の富士登山はやはりしんどいですが、御殿場口と富士宮口をつなぐ森林限界近辺の砂礫地帯はよく整備され、過剰なアップダウンもないのでちょっとした紅葉狩りを兼ねたトレッキングも楽しいのではないかと思います。
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